いろいろな動機で アイルランド語(1) を学びたくなるときがあります。ただし、アイルランド語の勉強は簡単にはいきません。これにはいろいろな原因があります。
まず、文法が複雑 です。英語を支配する文法規則のおよそ 7 倍のルールがあると言われるくらい。
つぎに、文法と発音との両面にわたって、地域差が大きい。大きく、北、西、南の方言があります(順にアルスター、コナハト、マンスター)。
右の図(SIL 作成)をごらんいただきたい。イギリス諸島でケルト諸語がもちいられる地域がななめの格子模様でしめされているが、ゲルマン諸語(ここでは英語など)がもちいられる縦じま模様の地域にくらべて圧倒的に小さい(詳しい 説明[英語])。
アイルランド島(図の左側の小さいほうの島で、面積は北海道よりすこし広いくらい)をみると、西海岸と南海岸沿いに、点々と小さなケルト諸語(ここではアイルランド語)の地域があります。日常の話し言葉としてアイルランド語が用いられるのは、こうしたアイルランド語使用地域(ゲールタハト)にかぎられます。現在、ゲールタハトはアルスターのドネゴール、コナハトのメーヨー、ゴールウェイ、マンスターのケリー、コーク、ウォーターフォード、およびレンスターのミースにあります。各州の位置についてはこちらの 地図 を参照。ゲールタハトの位置についてはこちらの 地図 を参照。
かつては全土でアイルランド語がもちいられ、どこでもほぼ同じことばが通じていたが、さまざまの経緯をへて、このように辺境に追いやられ、分散してしまうと、各ゲールタハトは孤立化し、たがいに別々の発展をとげることになります。
なお、アイルランドの教科書や新聞では公式標準アイルランド語(1953年以来発行されている Gramadach na Gaeilge にもとづく、いわゆる Caighdeán Oifigiúil)がもちいられるが、これは書き言葉です。詩人や歌い手は、みずからの地域の方言でうたう。
この公式標準アイルランド語による文法、つづり、語義などを知りたい場合は現行の Gramadach na Gaeilge agus Litriú na Gaeilge: An Caighdeán Oifigiúil (Baile Átha Cliath [Dublin]: Oifig an tSoláthair, 1998)を参照のこと。
アイルランド語の歌に使われる韻律法はやや複雑です。(2) 歌に使われる韻律法については簡潔な説明が The Companion to Irish Traditional Music (Fintan Vallely, ed. Cork, Ireland: Cork University Press, 1999, ISBN 1-85918-148-1)の 'song' の項(pp. 352-353)にあります。これ以外の文献はほぼすべて入手困難か、あるいはアイルランド語で書かれています。
愛和辞典はついに出ましたが、高価です。最新の成果をふまえた日本語の学習書はまだありません。(3) したがって、勉強の手がかりが少ない。この状況では英語による各種の道具を使うのが現実的です。
以上の困難を乗越えてアイルランド語の習得を目指そうとする人に道しるべを提供するのが本頁の目的です。星印 (★) はおすすめです。なお、基本的な辞書類は アイルランド語を調べる のページにもありますが、行き来する面倒を考えて、こちらにも再録してあります。註の内容も一部共通しますが、こちらは説明を詳しくしてあります。
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日本の大学に(現代)アイルランド語の専攻学科はまだない。京都大学文学研究科行動文化学系の 言語学専修 では古アイルランド語を学ぶことが可能。また、早稲田大学の オープン教育センター では(現代)アイルランド語(初級)クラスが開かれており、東京圏の大学からの受講者も受付けている。初級とはいえ、Learning Irish を教科書に用いている。
2006 年4月から、天理大学のサテライト語学教室 でアイルランド語講座が開かれる。
いずれにしても、本格的に学ぶにはアイルランドの 大学 か各種のアイルランド語講座に行くのがよい方法だろう。大学レベルで、どこで何が研究できるかを調べるには IEBI (International Education Board Ireland)も参考になる。
私費によるアイルランド留学をあつかうところには、たとえば、I. C. T. (アイルランド留学センター)がある。
アイルランド全域におけるさまざまのアイルランド語習得の場については Foras na Gaeilge (アイルランド語庁)にくわしい。
(1) アイルランド語という呼称について:「アイルランド語」といえばアイルランドの言語のことになる。ところが、アイルランドでは第一公用語がアイルランド語で、第二公用語が英語である(憲法第8条に規定されている)。つまり、アイルランドでは公用語として二つの言語が用いられている(実用上は英語が全域で通じる)。そこで、単一の言語をさす名称として「アイルランド語」とは本来いいにくい。
それをふまえたうえで、ここで特に「アイルランド語」という呼称でさすものは、アイルランド固有の(ケルト諸語に属する)言語のことである。すわなち英語で the Irish (language) または the (Irish) Gaelic と呼ぶもの、アイルランド語自身では Gaeilge [Gaedhealg, an teanga Gaedhilge] と呼ぶもののことである。これが、このことばをまぎれなくさすものとしてほぼ唯一の呼称であることを提唱したい(他の呼称については SIL の頁 GLI を参照。また、アイルランドで用いられる種々の言語については Languages of Ireland を参照)。
なぜなら、日本で従来ひろくつかわれてきた「ゲール語」はいろいろな意味で不適当であるからである。「ゲール」という語をもちいるなら「ゲール諸語」とでもいうほかない。そのなかには複数の言語(アイルランド、スコットランド、マン島で話されるケルト諸語)がふくまれる。これら三つの言語を総称して q-ケルト語またはゴイデル語(派)という(Goidelic)。つまり、「ゲール語」といえば、事実上はこの「ゴイデル語派」というグループをさすことになる。なお、「ゴイデル語」というのは、ゲール諸語に先行する古い形として、比較言語学上、仮想されるものである。それから、長くなってもよければ「アイルランド・ゲール語」という言い方も理論的には可能である。
ところで、ゴイデル語派が属するケルト諸語には、もうひとつ、p-ケルト語またはブリソン語(派)がある(Brythonic)。この一派にはウェールズ、コーンウォール、ブルターニュで話されるケルト諸語がふくまれる。
これらのケルト諸語はインド・ヨーロッパ[印欧]語族(Indo-European)に属する(下の簡易図解参照。IE は印欧語族、そのなかにケルト諸語があり、それがゴイデル語派とブリソン語派とに分かれる。Goidelic と Brythonic のレベルから左はすべてグループであることに注意)。ケルト諸語を地理的に分類した場合には、大陸ケルト語群と島嶼ケルト語群とに分けられるが、前者に属する言語(ガリア語やケルト・イベリア語など)はすべて4世紀頃までに死滅した。われわれがここで問題にしているゴイデル語派やブリソン語派は島嶼ケルト語群に属する。くわしくは「参考文献」であげた『ケルト事典』の「言語」「ゲール語」「q-ケルト語」などの項を参照。
なお、英語は印欧語族のゲルマン諸語のなかの西ゲルマン語のグループに属する。ケルト諸語の分類で出てきた q とか p というのは、印欧(祖)語の段階で *qw であったと想定される音が、そのままか、または k 音で残ったケルト諸語を q-ケルト語、p 音に変化したケルト諸語を p-ケルト語と呼ぶことからきている。同音はラテン語では qu- として残り、英語では wh- (f-) に変化した。たとえば、「4」を表す語は、ラテン語で quattuor、アイルランド語で ceathair、ウェールズ語で pedwar、英語で four である。くわしくは Fios Feasa を参照。
以上の言語の分類は系統論によったが、ほかの分類方法もある。くわしくは 世界の言語 を参照。たとえば、語順による分類では、アイルランド語は pN 型(前置詞−名詞)中の VSO 型(動詞−主語−目的語)で NA 型(名詞−形容詞)の言語に属する。つまり、アイルランド語(およびケルト諸語)の語順は、動詞、主語、目的語の順にならび、名詞の前に前置詞がきて、形容詞は名詞の後にくる。他にこの型に属する言語には、たとえばアラビア語、ベルベル諸語、ポリネシア諸語がある。日本語は Np 型中、SOV 型の AN 型である。
スコットランド・ゲール語(スコットランド高地のゲール語)やウェールズ語やブルトン語に関するサイトは枚挙にいとまがない。もし、スコットランド・ゲール語がどんなものか関心があれば、Beag air Bheag をすすめる。アイルランド語に関心があるひとにもこのサイトは興味深いだろう。日本語による頁では、たとえば スコットランドのゲール語 などがある。いまも使用されている四つのケルト諸語(アイルランド語、スコットランド・ゲール語、ウェールズ語、ブルトン語)のうち、もっとも勢いの強いのはウェールズ語で、弱いのはブルトン語であるという説もある。
(2) アイルランド語と歌について:アイルランド語詩の韻律法は現在では歌でのみ保存されているといえる。歌の韻律分析をおこなった書には、たとえば Pale Rainbow: An Dubh ina Bhán (by Brian O'Rourke. Irish Academic Press, 1990) がある(絶版)。同書であつかう10曲の歌 (Róisín Dubh, An Giolla Dubh, An Draighneán Donn, Sail Óg Rua, Bean an Fhir Rua, Coinnleach Glas an Fhómhair, An Chaora Ghlas, Aisling Gheal, Úna Bhán, An Caisideach Bán) をおさめたテープもある (Pale Rainbow I, II, G. T. D. CP006, 007; 1988)。 [Back to Top]
(3) 日本語による書籍について:『アイルランド・ゲール語辞典』(前田真利子、醍醐文子編、大学書林、2003)という愛和辞典がある。詳しくは、アイルランド語を調べる の頁を参照。おなじ出版社からは、ほかに『ゲール語基礎1500語』(三橋敦子編、大学書林、1985)という簡潔な語彙集があり、一般の単語以外に固有名詞一覧表、文法事項のまとめなどがある。また、『ゲール語四週間』(カハル・オー・ガルホール、三橋敦子著、1983;テープあり)、『ゲール語会話』(カハル・オー・ガルホール、三橋敦子、原久子著、1988;テープあり)、『やさしいゲール語読本T シォーンとモイラ』(三橋敦子、宮地裕美子著、1987;テープあり)、『たのしいゲール語読本U リア王の子たち』(カハル・オー・ガルホール、前田真利子、安達信明、三橋敦子著、1988;テープあり)、『うつくしいゲール語読本V ダブリンの街、山 エラガル』(カハル・オー・ガルホール著、1990)が同じ大学書林から出ている。 [Back to Top]
(4) ラジオの利用法について:インターネット(・ラジオ)でアイルランド語の聞ける機会は意外に多い。ftp などでダウンロードできるものはファイルとして何度も利用が可能であるが、ストリームの形で配信されるものも工夫すればくりかえし利用できる。簡単な方法はコンピュータの音声出力(ヘッドフォン端子など)を録音機(テープ、MD、DAT など)の入力につないで録音することである。アナログの音声を録音することになる。これに対し、コンピュータ上でディジタル音声のまま保存する方法もいろいろ考えられるが、一番手間が少ないのはインターネット・ストリームにも対応したレコーダー・ソフトをつかうことである。たとえば、Windows 上で動作する Total Recorder ($11.95)をつかえばインターネット上で聞こえるほとんどの音がコンピュータ上で「.WAV」形式で録音できる。また、「.RA」ファイル(RealAudio)を再生し同ソフトで録音して「.WAV」形式で保存することなどもできる。 [Back to Radio]
Leasaithe: 8 Eanár 2008